リヒテンシュタイン展

★朝日新聞:特集:★
*夏の離宮:美の殿堂*
スイスとオーストリアに抱かれたヨーロッパの小国リヒテンシュタイン。
国家元首たる侯爵家は、世界有数の美術コレクションを築き上げてきた。
その中からよりすぐられた名品約90点を公開する
「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」展が開かれている。
侯爵家は、どんな場所でコレクションを育んできたのか。
現地を訪ねた。

どこまでも青い空、アルプスの少女でも現れそうな草原。
昨年8月、リヒテンシュタインの国民記念日の式典には、
35千人の国民のぼとんどが集まっているのではないかと思えた。
式典会場の緑の斜面の向こうに、侯爵家の居城、ファドウーツ城が見えている。
 侯爵家のコレクションは長くかつての拠点ウィーンにあったが」
2次世界大戦を機にこの城へ。
その後は秘蔵に近く、
2004年になってウィーンの「夏の離宮」で公開され
るようになった
(現在は予約制)。

 離宮は、18世紀初頭に侯爵家の避暑用の住まいとして造られたバロック様式の宮殿だ。
外観は荘厳な一方、かわいらしさも漂う。
ここに展示されている作品群が、
今は多く日本で公開中だ。
 足を踏み入れると、壁や天井にしっくいの装飾。
展示室のある上階へ向かう階段室で、巨大な天井画を見上げることになる。
大小ほとんどの部屋に天井画があり、華麗なる装飾
の館といっていい。
 最初の2室で、中世ゴシック期、ルネサンス期の絵画や調度品と出あう。
ここからはラファエロ「男の肖像」などが来日した。
 コレクションのディレクター、ヨハン・クレフトナーさんは、
「他の王族や貴族のコレクションは、たいてい17世紀のバロック以降なのに、
ここはもっと古くから19世紀にまで及ぷ。工芸品や家具もある。
そして今も新しいものが加わっている。とんなコレクション、ほかにありません」と話す。
幅広さの背景には、美術品によって文化を残す、
という侯爵家の使命感があったようだ。
 イタリア・バロックの一室を経て、自慢のルーベンスの作品群が続く。
なかでも注目は、ルーベンスがまな娘を描いた
肖像画「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」。
縦わずか
37センチの小品ながら、りりしさすら漂わせる少女の姿は、
見逃せない一点だ。
 絵画や彫刻、工芸品から家具まで。かつて侯爵家が過ごした雰囲気を、
今も残す夏の離宮。その美意識と気配が、まるごと日本にやってきたのだ。
  (編集委員・大西若人)

【リヒテンシュタイン家】
ハブスブルク家の臣下として活躍したリヒテンシュタイン家は、1608年に侯爵家となった。
さらに17世紀末から18世紀にかけ現領地を獲得し、1719年には神聖ローマ帝国に属する
領邦国家としてリヒテンシュタイン侯国が誕生した。
侯国の成立後も同家は主にウィーンに居を構え、

ファドウーツに住むようになったのは1938年から。同家は次々と有能な軍人、外交官、大臣が
輩出する一方、優れた美術品収集にも代々力を注ぎ、数多くの宮殿を建て、
19世紀初頭からそのコレクションをウィーンで一般に公開した。